黒南風の海

 

黒南風の海

文禄・慶長の役(朝鮮征伐)のことが知りたくて手に取った一冊。

日本を統一して世界へ、とスケールが大きく立派に聞こえるが単なる侵略戦争だ。
日本の統治によって圧政を強いられている民を開放するなどという大儀はあれど、
和議に応じない場合や義勇兵の反乱などは容赦なく武力を行使する。
相当な遠征であり兵糧の補給もままならないため現地で強引に買い付けるしかなく
現地の人の生活を壊すことにもなっただろう。
さらに現在の北朝鮮やモンゴル近辺は極寒の地であるから、凍傷、栄養失調などで
バタバタと兵が倒れる。己の国が侵略されているのであれば国や家族を守るためと
士気も高いだろうが、「大儀が緩い」割に過酷で凄惨すぎる遠征であったため、
将や兵の迷いもかなり生じただろう。そのあたりが旨く描写されていた。

また、小西行長石田三成、清正らが確執を強める原因となったとも言われるが
その理由もよく描写されていた。特に行長とは現地制圧の手法で対立していたが、
結局は功名心による競り合いが原因であるというのような方が自然だと感じた。
(清正をかなり美化しているんじゃないか?と)

当時も今と変わらずも戦況を主人である秀吉に逐一伝える「報・連・相」を
していたわけだが、伝者が往復するのにどれだけの時間と危険を伴うのだろうか。
ようやく日本に戻り秀吉に接見、報告内容で秀吉激怒。前線の苦労は伝わらない。
(ZOOMで軍議や和睦交渉が行われてたら色々スムーズにいっただろうか?笑)
この頃の秀吉は老いのために客観的に考える力が衰えて征韓論に妄執していたが
天下の太閤様であるから国内に反対勢力もなく異論は唱えづらかっただろう。

そして、主人公となっていた日本の兵長と朝鮮の役人の友情話がアツかった。
戦禍の成り行きでお互いに降和、附逆の立場になって交錯する運命。
朝鮮の役人・金官も実在の人物で、のちに清正公に伴って日本に帰り、
清正公の没した際には後を追ったそうで、その墓も隣にあるそうだから
熊本に行った際には是非参ってみたいものだ。

それにしても聴き慣れない言葉がたくさん出てくる本だった。(赤心、とか)
ギリギリ現代語かなぁ、というような単語が説明なく出てくるので何度かは
辞書を引いたが大半は読み飛ばすことになった。時間があったら全部調べたい。。