神々の山嶺



フィクションの山岳小説だが、作中に登場するのは実在の登山家だという。


先鋭的な冬山登山をやっていればいつかは死ぬ。
自明の事実だ。だったらなぜ登るか、常人には大凡理解できないであろう。
登山家の山に掛ける情熱とはどういうものなのか、これを読めば分かる。
とにかく山への描写のリアルさが読んでいてグッとひきつけられるところだ。
極限の登攀を行っているときの焦燥感、不安、一歩毎に自問自答を繰り返す様子。
辛い行程の中、ヒマラヤの山の雄大さ、星空に投げ出されたような風景に
感動する主人公と一緒に自分も想像して震えてしまうほどだった。


特に、どれかひとつ名シーンをと言われるなら
深町が羽生にネパールに留まる目的を問いただして、
エベレスト南西壁無酸素単独登頂という山屋にとっての最後の財宝のような
計画を打ち明けられたときの深町の狼狽ぶりの描写がたまらなく興奮する。


男の夢だ。馬鹿になるっていうのはこういうことなんだな。
山というのは宗教なんだな。