二人のチョモランマ

二人のチョモランマ―中年サラリーマン登山隊8848メートルに挑む


登山家の最たる目標としてチョモランマ登頂がある。
しかし2009年現在チョモランマを征した日本人は130名余りだ。
登山家人口に対していかに狭き門なのかが窺い知れる。
体力、技術面は当然として予算面でも数千万から億は掛かると言われる。
http://www.everest.co.jp/everest95/summiter-j.htm


この本にはチョモランマを登るとはどんな世界なのかという点について
詳しく書いてある。
著者の貫田氏は盟友・二上氏と共に、決して若いとは言えない四十路で
サラリーマンとして、冬季、短時間、無酸素など挑戦的な登山はせず
できる限り現実的に、しかも低予算(1人400万)でチョモランマを征した。
国、企業のスポンサーがつくのが当たり前だったところを始めて個人で
登った点において「コロンブスの卵」と評されている。


登頂までに掛かった期間は三ヶ月。
最初の二ヶ月は高所トレーニングに充て、近くの6,000m級峰に登った。
練習で6,000m級なのだからすごい。
また、チョモランマに登る為にはかなりの重装備が必要である。
極寒の世界なのでそもそも厚着をしている上に、水、食料、テント、
酸素ボンベ、寝袋、カメラ、調理用具、計測器具類、ロープなどの
登攀用具などを二人だけで運んでいくのは不可能に近いので、
荷揚げ屋として、シェルパ族という山に強い現地民を雇う必要がある。
シェルパ族と一緒に上へ上へとキャンプ地を上げながら進んでいく。
8,000mまで登ってあるのに、最終アタックの前など休息を取る為に
麓の町までいちいち下山していたのが驚きだった。
8,000mの高地はただそこにいるだけで消耗する場所なのだ。
この本からは、そんな「リアル」な行程と、その時々の貫田氏の
興奮や動揺などの心情が事細かに、迫力たっぷりに伝わってくる。


最後の力を振り絞るかのように牛歩で登頂に成功し、喜びを二人で
大いに分かち合い下山を開始した直後、貫田氏が振り返ると二上氏は
雪面にアイゼンの滑り跡だけを残して姿を消していた。


結果としては悲しいことになってしまったが、貫田氏はこの経験から、
二上氏から多くのことを学び取り、再びチョモランマ登頂を果たしたり、
次代のアルピニスト達に技術を伝えつつ、今なお山と関わり続けている。
それほどまでに男を魅了するチョモランマとはどんな山なんだろう。
私もネパールに行って、実際に神の山をこの目で見てみたい気持ちで
いっぱいになった。