ルワンダ中央銀行総裁日記

まるで異世界転生モノ小説のようだと話題になっていた本。
手にとって見ると50年以上前の本なので驚く。

内容としては、日銀行員からIMFの要請で独立後間もないルワンダ
中央銀行総裁となり中央銀行の施策として通貨改革を実施したのみならず、
税制、財政改革、産業育成までを行い、ルワンダ経済再建の祖となった
様子が本人の日記として描かれている。

着任当初、中央銀行を運営するために必要な人材がおらず、
国家予算や税制もめちゃくちゃで、二重相場による租税の抜け穴を突かれて
宗主国であるベルギーなど欧米諸国の商人に食い物にされている状況から
現地の人々とよく対話して問題点を分析し、要職者とネゴシエーションし、
法案を策定、実施体制を組成し、施策のフォローアップを行うところまでが
詳しく書かれている。中央銀行の守備範囲をよく把握していない私であるが、
税率改定や産業に関する規制法案の立法などは明らかに範囲ではないだろう。
同氏の非常に広く深い見識に敬服させられる。

特に面白いのは、改革の断行に当たっては当然、既得権益層との衝突が
生じるが、それらを説き伏せる服部氏の論説が非常に痛快であるという点だ。
ベルギー人の商銀支配人、大臣の顧問、商工会議所会頭、鉱業業者と
様々なメンツが抗議に訪れるが、卓越した知識と経験をもとに誠実に諭す。
相手の皆さんが理性的で良かったが、こんな事やってて消されないか?
と思った。現に大統領が暗殺されるような国だし。

なぜ服部氏が強めに出ても消されなかったか?
2周目をパラパラ読んでていて、その答えがなんとなくわかったのだが、
ルワンダに到着してすぐ、空港に迎えに来てくれる中銀副総裁の「ハビさん
のことを副総裁のくせに銀行業務を知らず使えないやつと評しているが、
なんと、これが後に次代の大統領となるハビャマリナ氏である。
p.66にさらっと革命の中級指導者もやっててと記載があるが、調べると
この人は中銀副総裁が本職ではない。Wikipediaにはハビャマリナ氏は
1965年に国防警察相に就任とあるから服部氏着任時から相当な実力者であり
彼の庇護下にあれば早々誰も文句は言えないのではないか

P.219にもさらっと陸軍大臣に頼んで特高警察の刑事を貸してもらったとあるが
総裁とは言え外国人にそんなことできるか?
軍部トップとの結びつきを想起させる逸話である。

なお、Amazonのレビューを見ても経済施策については理解が追いつかなかった
とかいう意見が多かったが、私も「平価切下げが経済援助の条件」とされていた
部分についてはよくわからなかった。
平価切下げ→財政均衡→信用アップ→経済援助可能となるのは理解できるが
平価切下げが必要と判断される理由は何であったのか等、国際金融や為替を
勉強し直さないといけない。

服部氏が6年の任期を終えて1971年に帰国したあと、クーデターにより
大統領に就任していた前述のハビさんが1994年に暗殺されたことをきっかけとして
ルワンダ大虐殺が起こる。

服部氏はこれに対して後年意見を述べていて、同書の増補版にはその寄稿が
掲載されている。それによると、世間ではメジャー民族であるフツ族による
マイナー民族であるツチ族の排除と見られており、フツ族は非難されているが
同氏はこれは偏向報道ではないかと指摘している。

きっかけとなる大統領を暗殺しているのはツチ族であるし、ツチ族の解放運動など
小規模なクーデターを起こし続けていたので。一概にどちらが悪いとも言えない。

そもそもどうして対立しているかというと、元々はツチ族が王族で、フツ族
隷属というよりは地主と小作人の関係でうまくバランスを取っていたが、
ドイツやベルギーの植民地であった時代にツチ族の王政を使って間接統治しようと
したことによってツチ族フツ族に対する要求が過大になり両民族間の摩擦を
生じさせたことに端を発するということがわかった。

さらに服部氏は日本が支援を行うべき内容についても述べ、真の国際人としての
矜持を示しており、完璧な論稿であると感じた。

 

今回、図書館で借りた本ではあるが、歴史上の人物レベルで大きな仕事を手掛けた
という話であり、自身の職責に対する真摯な姿勢、現状を深く分析し、
思慮深いコミニュケーションを心がけるなど、社会人のバイブルになる一冊で
あることから購入して手元に持っておいてもよいかと思われた。

現在非常に売れているらしく新書ランキングでも10位以内に入っている。
どこかの誰かが面白いよってTweetしたことがきっかけだとか。すごいな。

下記リンクのような他者レビューも豊富にあってこれらを見るのも面白かった。
服部正也氏の「ビッグ・プッシュ」(「ルワンダ中央銀行総裁日記」より) - himaginary’s diary