ますらお 秘本義経記
「遮那王義経」に続き、義経物の漫画「ますらお」(全8巻)を読了。
同じ人物を描いているだけあって大筋のストーリーは同じなのだが
所々違うところがあり、その違う部分は各作者なりの解釈をしている
部分なのだというところが分かるので、2作を続けて読むのは趣深い。
なぜ細部が違うのかというと、源義経という人物の資料としては
「吾妻鏡」「平家物語」「源平盛衰記」「義経記」が挙げられるが
「吾妻鏡」「平家物語」が史実/創作の入り混じったものであり
(義経の右筆から頼朝への戦況・戦果の報告文書を基にしているので
ある程度正確な部分と、源氏目線で都合良く脚色された部分が混在)
それを基に「源平盛衰記」「義経記」が二次創作されているらしく、
現代の漫画・ドラマはこれらを踏襲しつつ、現代的な解釈を加えて
エピソードをより詳細化したり、作品として面白くなるような演出を
行っているからだ。
平家物語が源氏よりに脚色された経緯は「平家物語の虚構と真実」
という本が参考になにるそうなので是非読んでみたい。
「遮那王」「ますらお」の登場人物は以下のカテゴリに大別できる。
特に「ますらお」では登場人物はほぼ実在の人物で占められている。
漫画に登場するキャラが実在かどうか確認するのも面白かった。
①実在の人物(義経、頼朝、平清盛、弁慶、北条政子、静御前など)
②源平盛衰記、義経記などの昔に書かれた物語のみに登場する人物
(鷲尾三郎、常陸坊海尊など)
③その漫画のオリジナルキャラ(峨山直平、かすみ、瑠璃など)
まだ2作品とも1度通して読んだのみだが、自分なりに比較をした。
全51巻の作品と、全8巻の作品の比較なのでボリュームに差がある。
やはり「遮那王義経」のほうが主要キャラの掘り下げがされていたり
人間関係も丁寧に書かれていて、長いが読みやすい印象。
しかし、「ますらお」はコナンくんと同じ時期に同じサンデーで
連載していたとは思えないほど劇画の迫力があり、
脚色が少ないように見え、義経の性格がその異常な境遇に由来して
ダークかつナイーブであること等、登場人物の心の動きもリアルだ。
また、京から三草山への行軍の描写として強行さ、決死感がリアル。
(遮那王のほうでは割とケロっとしている感じ)
設定やストーリー上の大きな差は以下の通り。
■遮那王義経
・幼少期に鞍馬寺に入る前から奥州での最期まで全て描かれた
・義経が別人に入れ替わっているという大胆な設定
・鞍馬天狗の正体が峨山直平
・義経のライバルは平教経
・建礼門院徳子と昔馴染みの設定(敵対する葛藤が描かれる)
■ますらお
・鞍馬寺脱走から一の谷の戦いまでが描かれて連載打ち切り
(何と18年ぶりに連載再開して屋島の戦い編がスタート。)
・鞍馬天狗の正体が鎌田政清(実在)
・義経のライバルは平維盛
・幼少期からの平家とのしがらみはほぼなし
(若干、知盛とありそうだが現時点では消化不良)
印象的だったのは、一の谷の戦いで平敦盛が打ち取られるが
どちらの作品でも確りと書かれていたことだ。
このシーンのことは伝統芸能である幸若舞の「敦盛」という
演目になっており、織田信長が好んで舞っていたあの有名な
「人間五十年、下天の内をくらぶれば・・・」のことである。
信長存命時から、源平合戦に関する物語は古典や伝統芸能として
親しまれていた、ということが分かって新鮮な気持ちになった。