パナマ文書とオフショア・タックスヘイブン 改革は可能か

 

パナマ文書とオフショア・タックスヘイブン 改革は可能か
 

とてもわかりやすく簡潔にまとめられた良書。 

パナマ文書とは何か

政治家、富裕層、高級官僚が税逃れのために秘密裏に資金を蓄えられたこと、マネロンやテロ資金の供給なども行われたこと、そして、これらに大手金融機関や会計事務所なども関わっていたという証拠になる文書のこと。

タックス・ヘイブンとは何か

不透明で秘密に閉ざされており、巨大企業や富裕層の利用のために形成され、先進国政府によって支えられている。民主主義を否定するもの。

 シンガポールのプライベートバンカーもケイマン諸島ペーパーカンパニーを作らせることが富裕層に対して提供する金融サービスの一環であると公言しているので、タックス・ヘイブンを利用すること自体は犯罪ではないんだろうと思ったのだが読み進めていくとBEPSという国際的な規制ができたのでこれについても今後制限を受ける可能性が高い。

オフショア・タックス・ヘイブンの何が問題か

これを利用して、担税力を有する企業や富裕者が巨額の税金を逃れているということ。税収に大きな穴が空き、各国の財政は緊縮政策を迫られ、社会保障など必要な公共支出を削減する一方、消費税の増税など不足する税収を勤労者の方に負わせようとしている。

租税回避を許さず、改革ができるか

2013年くらいからG8G20などで課題提起されている。提起された内容は以下。

  1. 各国の課税当局は情報を自動的に共有すべきである
  2. 各国は利益を国境の外に移すことができるルールを変更すべきであり、多国籍企業はどの税をどこで納めるかについて税当局に報告すべきである
  3. 法人は真の所有者を把握し、課税当局はその情報を容易に入手できなければならない

www.nta.go.jp

 

GAFAなどの多国籍企業が、日本において経済活動が行われ価値創出されたにも関わらず、その利益に対して課税がされなかった事実がある。
例えば、Amazon市川市の倉庫は「恒久的な施設ではない」とされ、一般消費者によるAmazon.co.jpとの通販取引はあくまで米国の本社との取引であるとの主張が通って租税を逃れてきた。本件では政府間の交渉にまで至ったが最終的に逃してしまったが、BEPS報告書では「恒久的な施設」の定義を緩和して、Amazonのスキームに対応している。

ただ、そもそも日本がBEPSを主導的な立場で進めてきたかというとそうでもなく、経団連からの反対もあって後ろ向きの対応が見られたとのこと。恐らく日本の企業も同じような税逃れをやっているからと思われる。

 

しかし、BEPSにも問題点があって多国籍企業の子会社を単独の企業のように扱っているという点。これでは、国外のグループ会社への利益逃しも、通常の他社との取引のように装うことが可能だということ。これを防ぐにはグループ全体の利益を算出し、それを経済活動の程度、従業員数や工場などの規模に応じて配分し、各国に支払うべき税額を確定するというやり方が最も望ましい。ただ、納税企業の協力が不可欠で相当な手間がかかるだろうことが予想される。BEPSは先進国が主導で作っているルールなので途上国にも参加できるようなルールになっていないとの指摘もある。

また、全ての租税回避を取り締まるのは全世界の国が協力することが必要であるが、金融情報の国際的自動交換制度にアメリカが参加せず自国のFATCAという制度に固執している。日本も2000年代では法人税40%であったが、国際的競争力強化を理由に現状20%前後まで下がっている。こうしたしわ寄せが消費税増税に繋がってくる。

 

こうした問題への解決の一助として、すべての企業サービスがどこの国で納税されているのかが、消費者のスマートグラスなどによって瞬時に把握できるようになったら、ということを私は考えている。